霧の中で目覚める煙の精霊
アイラ島の南、潮風と泥炭が渦巻く荒野に、その名を秘めた蒸留所がある。
――アードベッグ(Ardbeg)。
ゲール語で「小さな岬」を意味するその名の通り、海の断崖にひっそりと佇む蒸留所だ。
10年という歳月を経て姿を現すこのボトルは、まるで煙と海塩に包まれた幻。
最初の一口は激しい。強烈なピートスモークが、まるで夜の嵐のように喉を駆け抜ける。
だが、その奥に潜むのは――
柑橘のような酸味、バニラ、モルトの甘さ、そして焦がした樽の静かな余韻。
飲み進めるほどに、**“煙の奥にある優しさ”**が顔を覗かせる。
これはただのウイスキーではない。
「強さ」と「静けさ」、相反する二つの魂が共存する液体。
グラスの中でゆらめく琥珀色を眺めていると、不思議と時の流れが歪む。
やがて、煙の向こうから――誰かが囁くような気配さえする。
――アードベッグ10年。
飲む者の心を試す、夜の儀式のような一本。